モンスターハンター 短編小説シリーズ
〜モノクロノセカイ〜
ーー俺は、いつだって独りだったーー。
吹雪に覆われた小さな村、ポッケ村に来る途中にティガレックスに襲われた時も、村に来てから依頼を受けて成功した時も、失敗した時も、ティガレックスとの決戦に勝利した時も、上位クラスのハンターになっても、古龍を相手にしている時も、覇竜アカムトルムを討伐した時も、
独りだった。
別に寂しいとか仲間が欲しいとか、そんな感情は起きない。
独りでいるのが長過ぎた故に慣れ過ぎた。
村に来てから、五年か。
何者の手助けも借りず、俺はモンスターを薙ぎ払い、吹き飛ばしてきた。
今更、俺に仲間なんか要らない。
一人で十分だった。
俺が二十歳になったばかりのある時、村長は「里帰りをしてみてはどうか?」と訊いてきた。
帰る故郷があるなら、独りなんて言わない。
それでも俺は何故か、村長の言葉に頷いていた。
いや、理由は分かっていた。
ーー俺は、死に場所を欲しがっているに違いないーー。
生きる意味を見出だせない、俺なりの答えだったのだろう。
潔く生きることの出来ない俺は、死ぬべきだ。
いや、どんなに汚れても、死んでしまえばそれきりだ。
ただ生き続けるか、さっさと死ぬか。
至極簡単な二者択一だ。イエスかノーかくらい簡単だ。
普通の心臓なら前者を選ぶところだろうが、俺は自然と後者を選んでいた。
とんだ自殺志願者だな、と心の中で自分を嘲りながら、俺は里帰りとは名ばかりの自殺へと旅立っていった。
村を出て、ほんの数時間。
空には暗雲が立ち込め、吹雪が強くなってきている。
この感覚を俺は知っている。
見上げれば、暗雲を切り裂いてソイツが降りてくる。
鋼龍クシャルダオラ。
昔、と言っても二年ほど前に相手をしたことがあったが、あの時は見えない風の障壁に阻まれて、撃退することに死に物狂いになっていたな。
が、今は違う。
「ゴォアァァァァァァァァァァ!!」
クシャルダオラは地表に降り立つなり、俺に対して剥き出しの殺意を向けてきた。
そりゃそうだろうな。
だって俺、黒き神を越えた力持ってるし、敵だと思われても仕方無い。
背中の、黒き神を封じ込めたガンランスを抜き放ち、構えた。
悪いけど、お前なんか俺を殺すに値しねぇよ。
「邪魔だ」
構えた砲口の引き金を引き絞れば、封じられた黒き神が吼える。
俺を死の淵まで叩き落とした力だ。喰らったら、
死ぬ。
放たれる轟音の嵐は、雪どころか地盤すら吹き飛ばし、クシャルダオラをズタズタに引き裂いていく。
俺が放った一撃で、クシャルダオラは地に伏せた。
相手が俺で悪かったな、いや、お前が弱いのか?
どっちでもいいんだけどね。
俺は何事も無かったかのようにガンランスを背負い、自分で吹き飛ばした地盤を再び踏み締める。
さて、クシャルダオラじゃ役不足だもんな。
どこかに、俺を殺せるだけの力を持ったヤツはいないもんか。
テオ・テスカトルもナナ・テスカトリもオオナズチも、キリンも役不足だ。
伝説の黒龍でもいれば丁度いいんだろうけど、そんなに都合良くないわな。
気がつけば、雪山の奥深くまで来ていた。
こんなところに道なんてあったのか。ここの生活が長かった俺でも知らなかった。
俺は興味本意でそこへ足を踏み入れた。
その先。
そこに眠っていたのは、白き神だった。
アカムトルムと対を成すかのような、白。
まるで目覚めの時を待っているかのように、ヤツは眠っている。
そうだ、こいつがいい。
俺はこいつと崇高なる決闘を行い、そして散る。
うん、我ながら臭すぎてゲロ吐きそうなロジック付けだ。
決闘なんて言っても、そんなにカッコイイことじゃない。
互いに防衛本能を全開にした、血の啜り合いだ。
俺はおもむろにガンランスを抜いて、ソイツの耳だろう部位に砲口を押し付ける。
「はーい、おはよーございまーす」
クシャルダオラに喰らわせたのと、同じモノを放った。
するとソイツは、鬱陶しそうに首をもたげ、ゆっくりと起き上がった。
スコップのような顎、サメのようなヒレ、丸くて太い爪。
これだけ聞くと、なんか弱そうに聞こえるけど、それは大間違い。
さっきのクシャルダオラなんざ、比べ物にもならない。
ソイツは俺を睨み付け、後ろ足で立ち上がった。
「ヴゥオォォォォォォォォォォォォォォォ!!」
咆哮だけでソイツの周りの空気が吹き飛ぶ。
そんなところもアカムトルムそっくりだ。
俺は口の端を歪めて、ガンランスを構え直した。
「俺を殺してみろよ」
確かめてやろうじゃないか。
コイツが、俺を殺すに値するだけの怪物かどうか。
俺に、最高の死を与えてみろ。
安心しな、相手は俺だけだ。
はてさて、俺は生きるのか、それとも死ぬのか。
ーーどっちみち、独りだけどなーー。