モンスター&ハンター
序章〜出会い〜
チュン、チュン……。
外から鳥の鳴き声が僅かに聞こえてくる。そんな心地よい目覚ましで一瞬覚醒しそうになった私だったが、その穏やかな空気に思わず再び微睡みかけ……。
「朝にゃぁぁぁ!」
「うわぁぁぁ!?」
一匹のアイルーによって、叩き起こされた。
「うぅー、頭痛い……」
「全く、ご飯できてるって何度も言ってるにゃ? 次またこんな事があったら音爆弾使うにゃよ?」
サラッと恐ろしい事を言ってのけるこのアイルーの名前はネオ。私がハンター稼業を始めてすぐに私のオトモになった、ベテランのオトモアイルーだ。
未だキーンと音の残る耳に少し唸りながらもベッドから体を起こした私に、ネオは改めてため息をついた。
「それに……今日は新しいハンターさんが来る日じゃなかったかにゃ?」
「あっ」
ネオの放ったこの一言によって、未だ僅かに残っていた眠気が完全に吹き飛んだ。そう、今日は新しいハンターさんがこの村へやって来る日。私を含めた村のみんなが楽しみにしていたこのイベントを、私は睡魔の誘いによって完全に忘れてすっかり寝坊してしまっていたのだ。
バッとベッドから立ち上がり、装備を着るべくボックスへと歩み寄る。中から取り出したのは、この村へとやってきた時に村長さんから渡された防具一式だ。
私の名前はミズキ。つい最近このジャンボ村の専属ハンターになった、新人ハンターだ。新人というのはもう本当に新人で、過去に倒した事のあるモンスターで一番手強かったのは精々中型モンスターのドスランポスで、大型モンスターに限ってはまだ対峙した事すら無いほど。ただ、村長さん曰く以前この村の発展に大きく貢献したっていうハンターさんと似ているって事で、将来有望と言われてたりする。そのハンターさんって確か、クシャルダオラとか討伐したっていうあの有名なハンターさんだよね? 私、古龍種なんかに勝てるイメージが全く沸かないんだけど……大丈夫かな。
「何しんみりしてるんだにゃ」
「んぐっ!?」
色々と考え事をしていたら、ボックスの上に飛び上がってきたネオに口へ、この村特産ジャンボパンを突っ込まれた。
「“腹が減っては戦はできぬ”にゃ。先人のありがたーいお言葉にゃ?」
「むぅ……。それいつの人の言葉? 今はともかく、昔は戦争なんてやってる余裕無かったって教官さんが言ってたけど……」
ボックスの上に立つネオの足下に置かれた自らの装備をチラッと見て、昔教官さんに教えてもらった事を思い出す。未だにこの大陸では、人間や亜人の類が統治できている場所は非常に少ない。それは一重に、自然界を闊歩するモンスター達の存在があるからだ。だからこそ私達、ハンターという職業が出てきたわけだけれど、それも比較的最近の話。昔ともなればまさに生活は常に死と隣り合わせで、いつモンスターが襲ってくるとも知れない、まさに弱肉強食の世界だった。だから、人間同士が戦なんてしている余裕は当時無かったらしい。
「さぁ? 詳しい事はオレもよく知らんにゃ。何でも、こういった教訓を短い言葉に纏めたものを“ことわざ”っていうらしいにゃ?」
ネオの言葉から察するに、他にも色々あるんだろうか。ちょっと今度調べてみても面白いかもしれない。
「さ、とっとと食うにゃ。最悪インナーで行けばいいんだから、着替えは後回しにゃ!」
「そっ、それは恥ずかしいよぉ!」
◆
「……よし!」
「あっ、ちょ、待つにゃぁ!」
装備を着込んで家を飛び出すと、村のあちこちが飾り付けされていた。私がこの村に来た時もこんな感じだったなぁと思い出しつつ、小走りに村の中央広場へ。そしてその場所にホクホク顔で佇んでいたのは、この“ジャンボ村”の村長だった。
「おっ、眠り姫のお目覚めだね」
こちらに気づいた村長が、ニッコリとした顔で挨拶だか何だかよく分からない言葉をかけてきた。
「茶化さないでください……」
あはは、と笑う長い耳と高い鼻が特徴的な村長は、竜人にしてこの村を作った開拓者だ。先代ハンターさんの活躍で発展していったこの村だけれど、長命種である竜人族の彼はその当時からほとんど外見が変わっていないらしい。既に相当の年数を生きているはずなんだけど、イタズラ好きで子供っぽいところがある、だけど村や村人の事を第一に考えてくれる信頼できる人だ。
「いやー、しかし良かった。ギリギリ間に合ったみたいだね」
つい考え事をしていると、ニッコリと笑った村長が村の出入り口の方を見据え、私や周りの村人達も釣られてそちらを向いた。そこにいたのは――。
「どうも、初めまして。今日からこの村でお世話になります、カスケという者です」
爽やかな笑みを浮かべる、大剣を背負った一人の青年だった。
◆
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