モンスターハンター 〜星屑の瞬き〜
二十九章 Reunion
毅然として立つ少女。
ガレオス装備の男はその彼女がまだ年端もないと分かり、見下すような態度を取る。
「やめなさい、だぁ?テメーみたいな小娘が、どの口を……」
「お、おい待て……」
すると、何故かコンガ装備の男は制止する。
「あれ、レイア装備だぞ……!」
その指が向けるのは、少女の深緑の鎧。
ドスガレオスやババコンガなど歯牙にも掛けない、生態系の頂点、雌火竜リオレイアの素材を用いて作られた、一流ハンターの証。
それも、年端もないほどの若さで、だ。
コンガ装備の男はまだ身の程をわきまえているようで、足早に立ち去ろうとしている。
だが、ガレオス装備の男はそんな制止など聞いていなかった。
「ハッ、だからどうした!ハンターはお嬢様の道楽じゃ勤まらねぇことを教えてやら……」
少女に拳を振り下ろそうとするガレオス装備の男だが、ユニが横からその手を取り上げると、思いきりぶん投げた。
「あ!?」
酒場の床に叩き付けられて悶絶するガレオス装備の男。
「そうだねぇ、道楽なんかじゃハンターは勤まらない。でも、強ければ問題ないよね?……それに、女の子に手ぇ上げるなんて、ナンパとしてそれはどうなのかな?」
ユニもこう見えて、狩猟笛を軽々と振り回して飛んだり跳ねたりしているのだ。成人男性一人投げ飛ばすなど造作もない。
「こっ、このガキどもが……!」
「そこ!取り押さえて!」
悪態をつこうとしたガレオス装備の男に数人のギルドガールが駆け寄ると、一斉に関節や筋を締め上げる。
「いでででっ、わ、分かった、大人しくするっ……」
事態の収束はギルドガールの方に任せて、シルバとユニは、レイアシリーズの少女に向き直る。
シルバからすれば、見間違えようのない、一ヶ月前に分かれてしまった懐かしい顔。
「エー、ル……」
「……お久し振りですね、シルバ様」
シルバはどう応えればいいか戸惑い、エールも言葉には詰まったが、挨拶だけは口にする。
ユニも小首を傾げながら両者を見比べている。
「その、怪我はもう大丈夫なのか?」
「はい。すっかり元気になりました」
「ちゃんと、食べて寝てるか?」
「朝昼晩、ちゃんと食べて、狩り場にいるとき以外はちゃんと夜には寝てます」
「……そっか」
なら安心だ、とシルバは安堵する。
「シルバ様も、元気そうで……元気で、いてくれて、良かっ……!」
エールの声に突然嗚咽が混じり、泣きじゃくる。
「お、おい……何も泣かなくても……」
「だっ、だって……っ、シルバ様が、いなくてっ、私、すごく不安でっ……」
「分かったから、とにかく泣き止んで」
シルバはまだ開けていないお手拭きを開けると、それでエールの涙を拭いてやる。
しばらく様子見を続けていたユニだが、そろそろ声を掛けた。
「えー……っと、感動の再会のトコ悪いけど、状況説明して?」
エールが泣き止んでから、彼女を座らせる。
エールとユニが並んで座り、シルバと向かい合う形になる。
「初めまして。以前にシルバ様と組んでいた、エール・エスト・レイアと申します」
ぺこり、とお辞儀するエールに、ユニは合点がいったように「あぁ」と頷いた。
「料理上手な、シルバくんの彼じょ……」
「それはもういいからっ」
爆弾発言を放り込もうとしているユニを咄嗟に黙らせるシルバ。
「ベルナ村、龍歴院所属の、ユニ・ガブリエルだよ。よろしくね」
握手握手ー、とユニはエールの手を取ると上下に振る。エールの方も戸惑うものの、悪くは思っていないようで、ユニのスキンシップを受けている。
ユニがエールとの握手を終えてから、エールは少しだけ訝しげにシルバに質問する。
「あの、シルバ様。ユニ様とはどういった経緯で……?」
「話せばちょっと長くなるけど……」
シルバは、エールがココット村を去ってからの事を簡潔に話した。
「そうだったんですか……と言うことは、シルバ様は今、ベルナ村に?」
「あぁ、村長同士で話は付いてたから、厄介になってるよ」
なんか情けないな、とシルバは頭を掻く。
「そう言えばエール、その装備ってレイアシリーズだよな?」
「はい。怪我が完治してから、ユクモ村で依頼を受けて、先日狩猟した個体から作ったんです」
「へぇ……、俺なんか未だにランポスシリーズだぞ?」
たった一ヶ月で大きく離されてしまったようだ。
「でも、シルバ様のランポス装備も使い込んでますね。鎧玉での強化も複数回施しているようですし……」
今のエールのレイアシリーズにはない、幾多の戦いを潜り抜けた、実戦を知る証。
「それでもレイアシリーズってすごいよ。それに、可愛いし」
ユニがエールの隣からペタペタと深い緑色の装甲を撫でる。
「防具だけじゃなくて、それを着けてる人も可愛いなんて、反則でしょ」
「や、やだっ、可愛いだなんて……ユニ様だってそうじゃないですか」
可愛いと言われて頬を赤くするエール。
「その言葉は嬉しいけど、自分より可愛いコに言われても……わー、髪もサラサラで柔らかーい」
「あぅ……」
ユニはエールの桜色のロングヘアを撫でる。
どう言えばいいか分からず、また言葉詰まる。
「そうだ、ユニ。ドンドルマには数日滞在してていいんだっけ?」
思い付いたように、シルバは話題を持ってこようとする。
「うん、そうだけど?」
「だったらさ、これから三人で狩りにいかないか?」