モンスターハンター 〜星屑の瞬き〜
二十八章 遠路遥々ドンドルマ
ドンドルマ。
険しい山々の中に切り出して作ったような街で、数多くの街の中でも最大級の規模を誇る。
山々そのものがモンスターの侵入を阻む一方、唯一南側が平地ではあるものの、街の中で併設されている古龍観測所が24時間体制で古龍や危険なモンスターの動きを捉えており、それらの接近にはバリスタや大砲、撃龍槍などを用いて迎撃を行う。
つい以前までは、街が壊滅的な被害を受けたために復興作業を続け、筆頭ハンター達や『我らの団』の尽力によって、かつての栄華を取り戻した。
現在では狂竜ウイルスの研究にも大きく力を入れており、黒蝕竜ゴア・マガラ等の戦闘で入手した狂竜結晶の類いは全て、ギルドへの提出が義務付けられている。
今日も今日とて、ドンドルマは多くの人々が行き交い、賑わう。
そんな中、一機の飛行船がドンドルマに訪れていた。
飛行船の着陸場に無事に着陸した。
「お客さま、ドンドルマにご到着ですニャ。お忘れものの無いよう、お願いしますニャ」
飛行船のガイドを勤めるアイルーが一礼。
「ん、ありがとう」
「お勤めご苦労であーるっ」
飛行船の中より、一組の男女が顔を出す。
「へぇ……ここが、ドンドルマか」
男の方はシルバ。
「私も何度か来たことはあるけど、やっぱり大きさに圧倒されちゃうわけで」
女の方はユニ。
「シルバくん、荷車降ろすの手伝って」
「おっし」
シルバとユニは、飛行船の中に積んである荷車を引っ張り出して、地面に降ろす。
なぜこの二人がドンドルマに訪れているか。
それは、数日前に遡る。
「定期納品?」
三日ほど前のある夜、シルバはユニに呼び出されていた。
「うん、古代林でしか取れないゼンマイとかシメジとかあるでしょ?それを、ドンドルマの方で買い取ってもらうの。所謂、交易だよ」
「なるほどな」
龍歴院への納品が基本である特産ゼンマイや深層シメジだが、時々にドンドルマでも需要があるらしく、それらを届けるのも龍歴院所属のハンターの仕事らしい。
「それでね、明日の朝にドンドルマ行きの飛行船が出るから、それに乗るの。けっこう早い時間なんだけど、大丈夫?」
「早起きは得意な方だから大丈夫だ」
と言うわけで、数日かけて飛行船で過ごし、今朝にドンドルマに到着したわけだ。
シルバが荷車を押して、ユニが案内。
「(なんて言うか……)」
荷車を押しながら、シルバは胸中で溜め息をつく。
擦れ違いながら、主に男からの視線を感じる。
その視線の先のほとんどは、ユニに向けられている。
「(ユニが一緒だと、目立つな……)」
十人中、十人が認めるだろう、ユニの美貌。
それは、このドンドルマでも同じであった。
「〜♪」
当の本人はそんな視線など気にしていないようで、鼻歌を口ずさんでいる。
続いて、シルバに注がれるのは羨望と嫉妬の視線、否、死線。
「(さっさと帰りたいな……)」
いつまでもこんな死線は浴びたくない。
ユニの先導によって、大衆酒場へと入る。
酒場の中は、アルコールやタバコ、肉の油や香辛料の臭いが混ざりあって、何とも言えない悪臭を漂わせている。
荷車が酒場に入ってきて何事かと思う者もいたが、すぐに興味を失っていく。
酒場の受付嬢の一人が、ユニに応対してくる。
「はいはーい、今日納品の龍歴院のハンターさんね。こっちこっち」
厨房の方に案内され、そこで積み荷の納品を行うのだ。
検品は立ち会いの元で行われ、ユニは納品書を受付嬢に渡し、数人体制で検品されていく。
「特産ゼンマイ100本、深層シメジ50本、ベルナス20本に、高原米20kg…………はい、全部納品予定通りよ」
ユニの納品書に検品完了のサインが書き込まれ、ユニはその半券を控えとして渡す。
「いつもありがとうね。ベルナ村とか古代林の食材って珍しいから、すぐ売れて無くなっちゃうのよ」
「いえいえ、こちらこそ〜」
ユニは慣れたものか、特に緊張もなく応じている。
「良かったら、ゆっくりしていってね。あんまり落ち着くような場所じゃないけど」
納品を完了してから、シルバとユニはお言葉に甘えて酒場の席に着いていた。
「なぁユニ、これってオーダーとかしなくて良かったのか?」
「私みたいな龍歴院のハンターさんはお得意様だからね、格安でここの高いメニューをお任せで食べていいことになってるの」
これが楽しみだったの、とユニは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「それにしても、すごい場所だよなぁ。ここって……」
何人ものハンターが依頼を受けては帰ってきて、そして飲めや食えやの騒ぎ。
ココツト村やベルナ村では見られないほど賑やかな光景だ。
「んー、でも、私はここの料理食べたら早いとことんずらしたいけどね」
頬杖をついて溜め息をつくユニ。
「何でだ?」
ユニのことだから、しばらく滞在したいと言いそうなものだが、その胸中はシルバと同じだったようだ。
「だってねぇ、こう言うところにいるとね……」
そこまでユニが言いかけたところだった。
「よぉ、そこのお嬢ちゃん。可愛いね」
「俺らとちょっと遊ばねぇか?」
その声に振り向くと、どこからどう見てもガラの悪そうな男ハンター二人組が絡んできていた。それぞれ、ガレオス装備とコンガ装備を纏っているところ、力量そのものはシルバやユニと大差無さそうだが。
そう言うことか、とシルバはユニの心情を察する。
「そこのガキなんかほっといて、よ!」
コンガ装備の男の方はいきなりシルバを突き飛ばす。
「いでっ……!?」
突き飛ばされたせいで席からずり落ちるシルバ。
「ちょ、ちょっと、いきなり何なの!?」
ユニは席を立って、シルバを攻撃した男の方に非難の目を向ける。
「だから言ってるだろぉ?お嬢ちゃんにゃ、ガキなんざより俺らみたいな大人の男が似合うんだよ」
ガレオス装備の男の方はユニを掴もうとするが、その手をはね除けたのは起き上がったシルバだった。
「いきなり人のこと突き飛ばしといて何が大人だよ、あんたら……!」
「ガキはすっこんでろ!」
今度は腕の防具で頬を殴ろうと拳を振り上げるコンガ装備の男。
だが、その手は止められた。
「やめなさい」
酒場に届く凛とした少女の声。
「その方が何をしたと言うのです」
声の方向には、深緑の鎧を纏った、桜色の髪の美少女がいたーーーーー。