続きでございます
「…えー、今回集まってもらったのは他でもない、三度目となるが、奴の…オストガロアの討伐をお願いしたい」
「そいつイカなんだろ?泳げりゃ俺の華麗な槍さばきでみんなを引っ張ってやれたんだがな」
そう嘯くのは大型新人のトライ。ある村の危機を一人で救った伝説の男として語り継がれている。
「…まあイカに似ている、というだけでイカである保証はないのじゃがな…」
「なーじいさん、こいつ死人出してんだろ?それもハンターの」
「…あぁ…1度目の討伐作戦の時に…一人死んでいる」
質問をしたのは、ココット村出身で、片手剣使いの王。王と書いてワンと読む。
「…俺死ぬようなクエスト行きたくねえなあ」
「それでもココット出身かあ?ハンター始まりの地で生まれ育った人間のいうこととは思えねえな」
「バカ言え、俺ぁ村長とは違うんだよ、んで?死人ってどんな奴だったんだ?」
「…言わなければならないか?」
村長が喋ろうとした時、三人目がテーブルを叩く。
「そんなことはどうでもいいのよ!さっさと情報教えなさいよね!」
殺気立っている彼女の名はエフ。遠い遠い地方から来たらしく、それにしてはドンドルマなどの施設を知っている。ジャンボ村も馴染みが深いらしい。彼女の住んでいた地方は戦法まで独特で、モンスターを殺しすぎるために、養成学校に入れられ直して今に至る。言い方こそ悪いが新人の一人だ。そーりゅーこんという物が好きだったらしいが…地方がどうとかで使えないので太刀にしたらしい。
「私だけ前書きが長いのよ!何考えてんのよ!殺すわよ!」
「誰にキレてんだよ…」
「まあ良いではないか…奴は普段は二つ頭に成りすましているが、被弾していくと姿を現し、顔を見せるらしい。そして気をつけなければならないのは、赤い煌めきを放つ龍属性のブレス。大変危険らしいので、十二分に注意するように」
「…イビルジョーみたいだな」
トライがそう呟いたところで、王が待ってました、と言わんばかりにギルドマスターを問い詰める。
「で?死人の話は?俺は死にたくないからできればどんなヤツか教えてくれよ」
「…それはだな…」
その時だった。バンッ!!とデカイ音を立てて扉が開く。
「おお…!待ち侘びたぞ…!二度目の討伐作戦では無理を言ってすまなかった…!よくぞ戻ってきてくれた!」
そいつは、以前オストガロアと戦い、致命傷を受けて床に伏せていたハンターだった。
「…」
「…オイオイ、無口だな?」
「こんな頭装備してるからだろ…脱げよ、口元出さねえと喋れねえだろ?」
「…いや…やめておけ、昔とは違うんだ、その人は」
ギルドマスターがトライと王を制止する。エフは元から興味なし、と言った出で立ちで四人目を見ている。
「さて…オストガロアに殺された、一人目の話をしよう」
ギルドマスターは遠くを見つめ、昔話を始めた。
「あいつはそれなりに優秀なハンターだった。
それ故に妬まれることも多かったが、天才的な才能を得る代わりに、プライドという物、つまりは自尊心が欠けてしまった。しかしそれも長所となり得た。それがないおかげで誰と話しても自然体だったし、新人にいびることもなかった。どこまでも優秀なハンターだった。
そんなある日、極秘任務として、オストガロアの討伐が命じられた。その日のために磨き上げた武器を持って挑んだのだ。しかし…そいつの帰還した姿を…誰も見てはいない…」
「…じゃあ、そいつ生きたままオストガロアの近くにいることだってあるのか!?」
「…それはない…今のは死んだ、というのを柔らかく言っただけじゃ…」
「どうでもいいけどジジイってしょっちゅう口調ぶれるよね、カッコつけたいの?」
「エフ、あまり言うな」
ギルドマスターは少し黙ったが、無視して続けた。
「…あのハンターが死んだ、というのはアイルー達の弁による物だ…遺品もある」
「へえ、どこに?」
「あの神棚じゃ」
ギルドマスターが指差した先。あった物は、返り血が鞘にこびり付いた、黒い、たまのをの絶刀。
「…へえ…これが…」
トライが触らずに眺める。
「…予測でしかないが…龍ブレスに直撃し、肉体が砕け散ったため遺体がないと思われる…というのがアイルーの見解じゃ」
「…」
四人目が不意に、頭の装備…古代のフルフル装備を外した。
「…あの一撃は大変痛手です…バンギスを着ていたせいで…私も致命傷を受けた…」
「…龍…属性だよな?なんで生きてるんだ?」
「…あの時…逃げろ、と聞こえた気がして…必死で逃げて、当たって、身動きができなくなって…息ができなくなって…死を覚悟した時にアイルーに救われました…」
四人目は…フォウは目尻に涙を浮かべ、恐怖からであろう震えを抑えようとしていた。
「…死んだ者の名はクロス…ちんけな牧羊の村から出てきた天才少年だったよ…」
椅子に座り、野菜をもしゃもしゃ食べていたエフが飛ぶように立ち上がった。
「…行くよ、トライ、王、フォウ」
「…もう行くのか?」
「弔合戦だよ、わかんだろ!」
エフは、自分の獲物を置き、おもむろに神棚の黒い絶刀を取ると、背中に担いだ。
「行くよ!お前ら!」
エフが声を上げる。
「…ああ!ナメくさったイカは膾にしてスルメにしてやる!」
トライが嘯く。
「結局どっちにするんだい」
王が突っ込む。
「イカめし!」
フォウが答える。
またこの集会所に、猛々しい角笛の音が鳴り響く。