二部完結です
至極つまらない物だろうと思います
〜死に行く者の背中〜
萎びた木製のテーブルに開かれた古い地図。何者かによって引きちぎられた跡があり、それがどこか痛々しい。
その地図のど真ん中に、赤い印が付けられる。
「…えー、ここが我々の最終目的地であり、討伐地点でもある、竜の墓場というわけですな」
「なるほどなるほど…しかし地図が残っているとはまた不可解ですね?」
アンダーリム…っていう種類だったような…とにかく銀の縁をした眼鏡を掛けた女が言う。目標云々と語っているのは、自らは狩りに行かないにも関わらず、ハンターに無茶苦茶いうく…じゃなかった、ギルドマスターだ。
「今回のモンスターについて資料が少しだけ残っていてな…というより…えーと…なんだっけ?あのちんけな牧羊の村」
ベルナ村だよ覚えろよクソジジイが。故郷をバカにされて頭に血が上りそうになる。拳を握り締めた勢いで、身にまとったゼクスS装備の独特な衣擦れの音がする。
「ベルナ村ですね、私あの村に一度行ったことがあります、チーズフォンデュは絶品でしたなあ…」
この人はわかっている!俺の故郷の良さが!
「あ、でも、何の料理を頼んでもチーズフォンデュ形式だったのはちょっとイラっとしたかな〜…ロースハツ丼…だったっけ?あのソースもフォンデュ式で受け取らなきゃいけないのはちょっとね…」
じゃあ食うなよ。折角俺の中で株が上がりそうだったのに。プラマイ0じゃないか。
「まあその村から資料を送ってもらってね、今回の子の迎撃が出来るということだよ」
「…まあこの地図のここに行けばいいんでしょう?」
眼鏡の位置を直しながら女が言う。
「そうだな、頼むぞ、フォウ」
「任せてください!ダブルヘッドドラゴンなんちゃらなんて楽勝ですよ!」
なんちゃらってなんだ。それもう名前終わってるだろダブルヘッドドラゴンで。
ちなみに俺の名前はクロスだ。
「しかし…一人では…」
「俺!俺が行きます!」
俺が手を挙げる。
「…そうじゃな、そうしよう」
ギルドマスターも頷く。
「よし!じゃあ特殊クエストだから受注はいらないんですよね!?」
「ああ、要らんぞ、一刻を争うのに本部に連絡などしておられるか、行け行け、未来を担う若者よ」
その未来を担う若者が、死んじゃ笑い話にもなりゃしねえ。心の中で毒づきながら、俺の獲物であるたまのをの絶刀を手にした。
この世にたまのをの絶刀は、俺の所持する一本しか存在しないはずなのだが、この集会所には何故か、一本のたまのをの絶刀が神棚に祀られていた。俺は特に何も思わないまま、フォウの後を追いかけた。
結果から言うと、大敗だった。
奴は俺の斬撃にビクともしなかった。
フォウと呼ばれた女はガンナーで、俺の見たことのない銃を使っていた(彼女がサラッと零していたが、今日もよろしく、ラゼン、と言っていた気がする。)。が、ダメだった。
フォウも、俺も、二人仲良くBCに投げ出された、というわけだ。
「…キッツイなぁ…ただの頭が二つある竜なのに…なんでこんなに…」
「…龍ブレス吐いてくるとは思いませんでしたね…」
「…痛かったなあ…あのブレス…よし!へばってても仕方ない!アイルーちゃんには悪いけどもっかい行くか!」
「…ですねっ!」
俺とフォウは崖から勢いよく飛び降り、奴のエリアにもう一度侵入した。
何時間も戦っている気になってくる。
前髪が汗で額に張り付く。奴の頭が俺ごとフォウを凪ぎ払おうと地面を滑る。が、そんなもの俺には当たらない。踏みつけ、飛び、頭に一撃をお見舞いする。
だが、やはり奴の殻は硬い。まともなダメージも入れられない。
着地した時には、奴の口に、龍属性の赤い雷が走っていた。
「もうそんなの食らわないんだから!」
フォウがひょいひょいと奴の龍ブレスをかわし、貫通弾をぶち込んでいく。
「はぁっ!」
俺も負けじと、ベルナ村のハンター養成学校で仕込まれた気刃大回転斬りを叩き込む。
その瞬間だった。
奴が短く呻いた。
「フォウさんっ!チャンスですっ!」
「よっし来たぁ!」
ここぞとばかりに猛攻を仕掛けるため駆ける俺とフォウ。しかし、それは間違いだった。
奴は呻いたように見えて、ただその頭を地に隠しただけだった。
体を反転させると、勢いよくこっちに突っ込んでくる。
「うわわわわわっ!!?」
剣士であった俺は不必要に近付き過ぎていたため、横に逃げる。
「何こいつ?…変な動き」
フォウの目の前まで行くと奴は動きを止めた。ガンナーであったフォウはしめた、とばかりに、付かず離れずを守りながら弾を調合していた。
なぜだろう。俺の背筋に一筋嫌な汗が滑り、それと共に、凄まじいほどの怖気がする。気分が悪い。
「何…これ…!?」
フォウの顔が驚愕に歪む。
バンギス装備で片目は見えないが、その目の瞳孔が奴を捉えていた。
そいつは、竜じゃなかった。
これまで尾だと思っていたものはただの骨で、兜だった。
持ち上がった兜の下から出てきたのは、顔だった。
刹那、奴の眼前が赤く煌く。
俺の両足が、その光を見て動かなくなった。
「嫌…嫌よ…どうして…」
フォウは茫然自失…いや、足が動かないだけで逃げる意思はある…という様子で怯えている。
「逃げろっ!フォウさんっ!逃げろーっ!!」
その叫びは届かず、フォウは赤い光の中へ消えた。