本の中の旅人達
序章 昼下がりの古本屋
『チリン...チリン...』
古本屋にドアベルの小さな音が広がる。
「いらっしゃい!」
壁一面の本棚に規則正しく並べられている本の数々。
それらに華を添えるように、小さな間接照明たちが置かれている。
向かいには、ユクモの木で作られた横長のテーブルがある。
先ほど店長に声をかけられた男は、本棚の本をなぞりながら目当ての本を探しているようだ。
「ヴォルフ君、うちはそこらへんの古本屋とは一味も二味も違うよ〜。」
そう言う店長は、40歳くらいで銀縁の丸眼鏡をかけており店長という名札をつけている。
ヴォルフは店長の声には反応もせず本をなぞり続けている。
本棚の最後に差し掛かろうとしたその時、ヴォルフの指が止まった。
その指は赤一色の分厚い本を指している。
ヴォルフはその本を手に取ると、パラパラとページをめくり始めた。
1ページ目は大きな時で旅の記録と、書かれている。
2ページ目からは、びっしりと隙間なく書かれた文字と、多彩な色で描かれた挿絵が載っていた。
「この本をくれ。」
「じゃあ、350zでいいよ〜。」
そう店長が言うとヴォルフは静かにポーチを開きその中から、1000zを出し、店から去っていった。
「まいどあり〜。」